* 第7回研究会報告【音楽舞台としての〈能〉ー現代における試みー】
・日時:平成26年12月13日(月)14:00~17:00
・場所:愛知県立芸術大学博士棟 演習室
・テーマ :「音楽舞台としての〈能〉ー現代における試みー」
司会:高山
書記:牛島、山田
ゲスト:能楽 宝生流 教授嘱託 森下光さん
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【当日の様子】
今回はほとんどの参加者が能に関して初心者ということで、能の基礎を一部だけ抑えつつ、謡に関する知識や特徴、現代の作品と伝統の作品を鑑賞することに重きを置いた進行となりました。
【文献資料】
・『能・狂言の音楽入門』三浦裕子 音楽之友社
・『湯浅譲二《二つのフルートによる相即相入》における能の要素と展開』成本理香
・現代能、小出稚子作曲《恋の回旋曲》の楽譜と作曲者本人による作品解説
【研究会の進行】
(1)能の基礎知識 三浦氏の資料で要点を整理
(2)伝統能『葵の上』の一部を鑑賞
(3)森下氏による実演を含む謡の解説
(4)湯浅譲二《二つのフルートによる相即相入》鑑賞
(5)小出稚子《恋の回旋曲》鑑賞
(1)能の基礎知識
三浦裕子「能・狂言の音楽入門」を参照にしながら、森下光さんにお話をうかがう。
■能の特殊性
・能を一言で定義するなら演劇であるといえる。
しかし演劇と違う点は、音楽と舞踊が一体となった歌舞劇であること、仮面を使う劇であることの二点である。
・舞と謡の二つの要素が不可分に融合することが肝要である。
・もともと神楽から来ているので、舞は神聖なものという意識。
・武家の式楽となってからは武士の威厳を見せつけるためにテンポが落ち、シリアスな正確が強調されていった
■能舞台について
・基本的な作りを確認。見所とされる観客席が本舞台を囲むように作られているのが特徴。
鑑賞者にとっても舞台に参加しているという強い自覚が生まれる場所になっている。
・現在の能の舞台は江戸城にあった能舞台に合わせて作られたもの。
それまでは神社の神座のように舞台の真後ろから出入りし、地謡も真後ろに位置していた。
■型
・ほとんどの能は抽象的な話のため、型を組み合わせて構成されていることが多い。
・" 玉の段 "や" 鵜飼 "などは具体的なストーリーにあわせて振りをつける。(こちらの方が珍しい)
■扇の役割
・流派によって扇の柄が違う。
・扇・仮面などに何かが憑依して、その神聖な力を借りて舞うというのが基本。
よってシテ以外の扇を使わない地謡なども扇は常に持っている。
■舞
・足を上げる方に力を入れる 下げるときは落とすだけ。
■謡、音楽の特徴
・宝生流は他の流派と比べても一番謡が複雑な流派である。
・能の謡は息の遣い方と旋律、リズムの三つに分析できる。
・強吟は上音と中音が同じで音の変化が少ない、音程が低い。
・高い音を出すとこで重心を下げる。座ったままで歌うが全身運動。
・”コトバ ”の部分は拍に合わせてうたわない。
・8拍の最後でためて最初の一拍を歌う。ための方が大事。8拍は均等に進まない。
・曲の中盤で音が盛り上がってくるとずっと ”つづけうたい”になる。
・合わせるときはシテがどうしたいかを感じて出る
・一番歌が難しい宝生流はヨワ音階の最高音、上音から五度上に取る装飾的な音、「甲グリ」を使う
・本に載っている音階の間にも音を入れたりする(下音と中音のあいだなど)
・ウキの音で終わることはない
(2)能の作品「葵の上」の後半部分の映像をみる
能の音楽性を確認。
・御安所は”祈りもの”(お坊さんが祈祷をする場面がある話?)に出てくる霊のなかで一番高貴な女性なので、
あまり激しく演じないようにしている。般若は常に杖を持っている。
・付祝言は、禍々しい場面を扱った後、場を清めるために行うもの。
(実際に怨霊などが出て具合が悪くなる人もいるため・・)
(3)湯浅譲二《二つのフルートによる相即相入》
成本理香氏の論文『湯浅譲二《二つのフルートによる相即相入》における能の要素と展開』における分析を参照し、作品の第一曲を鑑賞。湯浅氏が西洋音楽に取り入れた、「多層的時間」と「見計らい」について確認する。それ以降、どこまで演奏家の文化背景を考慮するかという議論が行われる。
(4)小出稚子「恋の回旋曲」(こいのろんど) for Noh voice and percussion (2013)
作曲者本人によるユーモラスかつ率直なコメントを確認したあと、上演映像の鑑賞。
【感想】
<湯浅作品>
・身体的感覚を刺激される面白い曲
・計算され作られた間が効果的に感じられた。
・能の世界で当たり前に行われること(例えば「みはからい」)を、西洋音楽の文脈で行なおうとすることの難しさを思うと同時に、その意義を感じる。描きたい時空間が明確にあるが故に、新たな記譜法も開発され、海を越えることの出来るひとつの伝承の形が生まれる。
<小出作品>
・伝統への敬意を感じる。駅名が挿入されていることにより、現代に生きる自分としても身近に作品が感じられたが、真の意味で理解するには、伝統能の恋の重荷を勉強したうえで、作品を何度も鑑賞する必要がある。
・非常に巧みに引用や対比などを用いて構築されている。そういう意味では、伝統的な能の舞台における「お約束」を知っていれば、より深い楽しみ方が出来る作品だと感じる。
・音楽における「リズム」は、ある面ではその音楽の属する文化そのものを示している。この作品で囃子のリズムが「電車(山手線)が走る時の振動音」なのは、この作品が現代日本における東京、山手線沿線文化に属することを暗に象徴している。リズムの引用の方法として興味深い。
(文責;高山、牛島)