第3回 研究会報告 【ROSAS(ローザス)】
* 第3回現代音楽舞台研究会
日時:2014年6月26日(木)16:00-18:30
場所:愛知県立芸術大学博士棟演習室
テーマ:ROSAS(ローザス)―ケースマイケル振り付け作品の分析—
司会:牛島
書記:高山
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【研究会の進行】
(1)《Rosas danst rosas》(音楽:ティエリー・ドゥ・メイ)の視聴
(2) ローザス公式webサイトより、
ケースマイケルが《Rosas danst Rosas》の
椅子のシーンの振付を解説している動画を視聴
(http://www.rosasdanstrosas.be/background/)
(3)《Fase》、《Come out》(音楽:スティーブ・ライヒ)の視聴
(4)《HOPPLA!》(音楽:バルトーク・ベーラ)の視聴
〈文献資料〉
・譲原晶子『踊る身体のディスクール』(春秋社)pp.270-275
〈Webページからの資料〉
・「偽りなき振付 アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルに聞く」(CINRA.NET)
http://www.cinra.net/interview/2010/10/22/000000.php
・「アンヌ=テレサ・ドゥ・ケースマイケル」
(The Flying Cabinet 尼ヶ崎彬の書類箱)
※『ダンスハンドブック』(新書館)平成11年1月号掲載の舞踊家評を
著者自身でWeb上に展開させている。
http://homepage3.nifty.com/amagasaki/artist014.html
・「アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル『ローザス・ダンス・ローザス』」
(Dance Cube)
※唐津絵理氏による公演レポート
http://www.chacott-jp.com/magazine/world-report/from-others/others0910a.html
【当日の様子】
作曲専攻の学生さん達に続いて、研究会顧問の久留智之先生が笑顔で登場。
ドイツ演劇の大塚直先生もお忙しい中駆けつけて下さいました。
また、1、2回目同様、中部地域で活躍されている若い作曲家の方にもご参加頂き、
和やかな雰囲気の中、スタートしました。
《ケースマイケルの振り付けと音楽の関係について》
1983年のデビュー以来、その刺激的な作品により常にダンス界をリードして来たダンスカンパニー、ローザス。ケースマイケルの振付けは音楽に対する深い理解によって支えられ、世界的に評価されています。今回の研究会は、ローザスの初期作品における彼女の振付けに視点を定めて行われました。
(1)《Rosas danst rosas》(音楽:ティエリー・ドゥ・メイ)の視聴
視聴後に、譲原晶子著『踊る身体のディスクール』から、この作品の振付けについて
書かれている部分を抜粋して読み、大まかなその方法を把握しました。
(2)ローザス公式webサイトより、ケースマイケル自身が《Rosas danst rosas》の
椅子のシーンの振付を解説している動画の視聴
★(1)、(2)の視聴を終えて
・想像していたより、振付けにおけるひとつひとつのシークエンスが長い。
・A、B、C、D、E、Xの各振付けが、重なり合った時に動きの絡み合いが生まれる
ように、上手くバランスを考えて行われている。
(椅子に腰掛けた姿勢を中心に上下左右、或いは身振りの早さ、ダイナミックさ等)
・シークエンスの時間は均等である。
・身振りと音の関係性について、両者はこの作品において等質であると言えるのでは
ないか。
(3)《Fase》、《Come out》(音楽:スティーブ・ライヒ)の視聴
これまでの流れで、ケースマイケルの振付けの特徴を知った後、次に彼女が作曲家
スティーブ・ライヒの音楽に振付けした2つの作品を視聴しました。
《Fase》では、回転し続ける2人の白ワンピースの少女の間に意図的に創り出されてい
る影の重なりに、《Come out》では椅子に座った2人の女性によって行われる大変
抑制的(かつ大胆な)ダンスに迫るカメラワークに注目が集まりました。
★どこまでを「振付け」しているのだろうか。
・《Fase》で壁に移り込んでいる影は、単なる影という存在を超えてこの作品の重要
な要素になっている。これもケースマイケル自身の指示によるものであるのならば
彼女の振付けは身体上にのみ表現されるものではなく、舞台上の要素多くに渡って
為されるものであると言える。
★映像表現について
・ケースマイケル本人には、《Rosas danst rosas》の映像は舞台用に作った作品と
は別物であるという意識がある。(Rosasのダンサー:池田扶美代さん談)
・しかし《Come out》では、カメラワーク(段々近くなる、或いは遠くなる、又は
突然顔にアップで迫ったり、逆に遠景で2人のダンサーの身体を眺めたりする)も
作品の一部として1つの「線」を作り、音楽や身振りそれぞれが創り出す「線」と
絡みあって対位法的な効果を生んでいるように思われる。
★作品における「文化的記号」について
・例えば、《Fase》のダンサーは、お揃いの白いワンピースで同じ髪型(ボブ)であ
る。それらがもたらす文化的意味(例:白→純粋、ボブ→少女性)も作品に効果を
与えている。
・これらの作品における振付けは、文化的記号をどう組み合わせていくのかという
手法においてほぼ“コンポジション”であると言えるのではないだろうか。
★ローザス・アンヌテレサの振付方法、振付けにおける時間的概念について
・クラシックバレエなどとは根本的に異なる振付け思想がある。
・音楽に対して情感を伴った身振りを用いて振付けするという手法ではなく、音楽の
構造や要素そのものに深く迫り、それらに寄り添うことを基本としている。
・彼女の振付の方法は、作曲家が素材を使って音楽を構築することとほぼ同じである。
(4)《HOPPLA!》(音楽:バルトーク・ベーラ)の視聴
続いて、ケースマイケルがバルトークの音楽に振付けした作品の視聴を行いました。
本日の視聴作品の中で、はじめてミニマル・ミュージックでないものへの振付けで
あることで、手法に違いがあるのかどうかが話題となりました。
★バルトークの音楽への振付けについて
・これまでに視聴した3作品に比べると、クラシックバレエ的な動きが含まれている。
しかし、その構成は明らかにクラシックバレエとは異なっている。
・ミニマル・ミュージックへの振付けの場合、各シークエンスの時間が短め(数秒)
であったのに対し、バルトークの音楽への振付けではそれが長めになっている。
フレーズの長さに振付けのシークエンスの長さが対応している。
・音楽のあり方に忠実に寄り添うという意味では、ケースマイケルの振付けにおける
音楽との距離は変わっていない。
・アンヌテレサは、音楽に則して振り付ける手法はロマンチックなやり方であると
語っており、この作品でも、少女の日常的な動きが記号的に散りばめられている。
しかしそれはあくまでも流れの中における要素のひとつであり、女性性の主張を
行おうとしている訳ではない。
◯その他の感想
・《Rosas danst rosas》の振付けはオープン・ソース化され、誰でも真似して踊れ
るようになっており、ローザスの公式Webサイトでは、世界中のあらゆる人種・
年齢の人々のダンス映像が取り上げられている。このような形でダンスが広がって
いくやり方はコンテンポラリーダンスにとって新しい可能性を広げることになるの
ではないか。
・このように、様々な場所・年齢・人種の人が踊っても作品として成立するという事実
は、この作品のある意味での「強さ」だと言えるのではないだろうか。
<文責:高山、牛島>